技術士二次試験の筆記試験の選択科目Ⅲで答案の書き方が分からない人
これから筆記試験の論文を書くが、筆が止まってしまった人
参考程度に選択科目Ⅲの答案を見てみたい人
技術士二次試験の筆記試験は、択一式ではなく、記述式です。
そのため原稿用紙に何を書いたら良いか分からない方も多いと思います。
私も何から書き始めれば良いか分かりませんでした…。
選択科目Ⅲは平成後半から出題傾向がずっと同じでした。
そのため令和6年も同じ出題傾向と予測され、傾向に合わせた対策が効果的です。
本記事では、傾向を分析し、実際の試験に備えようというものです。
令和5年度に機械部門を合格した私が、答案作成のお手伝いをさせて頂きます!
・問題Ⅲは傾向把握と対策が有効
・白書は出題テーマ把握に役立つ
・原稿用紙は(1)600字、(2)600字、(3)600字 がオススメ
・課題とは「現状」と「あるべき姿」の差
・(2)は最も重要と考えた理由も書く
・効果と波及効果はプラス面を書く
・リスクとは、解決策を実施しても残ってしまう、不確実で危険な事象
・リスクの対策は、○回避→○低減→×移転→×保有 の順で考える
選択科目Ⅲの対策全体図
選択科目Ⅲの対策の全容として、次のステップで取り組むと良いでしょう。
審査項目や解答のコツを把握しましょう。本記事を全て読めばOKです。
文章を書く前に、3枚論文全体の骨子を作成します。骨子の書き方は、本記事後半で解説します。
4個ほど答案が完成したら、他のテーマが出題されても、今まで作成した答案で対応可能となります。
選択科目Ⅲの審査項目とコンピテンシー
本題(添削の内容)に入る前に、技術士の筆記試験選択科目Ⅲについて簡単に説明します。
選択科目Ⅲの審査項目は次のように明記されています。(技術士の受験申込書参照)
【概念】
社会的なニーズや技術の進歩に伴い、社会や技術における様々な状況から、複合的な問題や課題を把握し、社会的利益や技術的優位性などの多様な視点からの調査・分析を経て、問題解決のための課題とその遂行について論理的かつ合理的に説明できる能力【出題内容】
社会的なニーズや技術の進歩に伴う様々な状況において生じているエンジニアリング問題を対象として、「選択科目」に関わる観点から課題の抽出を行い、多様な視点からの分析によって問題解決のための手法を提示して、その遂行方策について提示できるかを問う。【評価項目】
技術士公式HPの受験申込書より引用
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち、専門的学識、問題解決、評価、コミュニケーションの各項目
つまり闇雲に回答しても点数が入るわけではなく、「審査項目」を満たした答案作りが肝要です。
審査項目について、「コンピテンシー」を意識して表にまとめると、このようになります。
審査項目 | Ⅰ | Ⅱ-1 | Ⅱ-2 | Ⅲ | 口頭 |
---|---|---|---|---|---|
専門的学識 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
問題解決 | 〇 | 〇 | |||
マネジメント | 〇 | 〇 | |||
評価 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
コミュニケーション | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
リーダーシップ | 〇 | 〇 | |||
技術者倫理 | 〇 | 〇 | |||
継続研さん | 〇 |
審査項目 | Ⅰ | Ⅱ-1 | Ⅱ-2 | Ⅲ | 口頭 |
---|---|---|---|---|---|
専門的学識 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
問題解決 | 〇 | 〇 | |||
マネジメント | 〇 | 〇 | |||
評価 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
コミュニケーション | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
リーダーシップ | 〇 | 〇 | |||
技術者倫理 | 〇 | 〇 | |||
継続研さん | 〇 |
コンピテンシーとは、「結果を出し続ける人の行動特性」の事を指します。
技術士に求められるコンピテンシーは、文部科学省のHPで説明があります。
当サイトでもこちらの記事で説明したので、気になる方は参照下さい。
次の審査ポイントで何点入りそうか、意識してください。
- 文章番号、タイトルの入れ方
- 解答は論理的整合性があるか
- 専門的学識
- コミュニケーション能力
- 問題解決能力
- 解決策を評価しリスクを見つけているか
選択科目Ⅲの出題パターン
選択科目Ⅲの出題パターンは一定の傾向があるので、パターン対策の価値があります。
機械部門の場合は、次の通り出題傾向が有ります。
他部門も同様の出題傾向が有ります。
※総合技術管理部門は全く出題傾向が異なるので割愛します。
ものづくり技術の主要なテーマの一つが説明される。
(1)具体的な機器などを想定して、その概要とテーマを実行する目的を示し、テーマを実行する上での課題を、技術者としての立場で多面的な観点から抽出し分析せよ。
(2)抽出した課題のうち、~分野において最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)(2)で示した解決策を実行した結果、最終的に得られる成果と波及効果を分析し、専門技術を踏まえた懸念事項と対応策を示せ。
選択科目Ⅲの対策
原稿用紙のおおまかな使い方
原稿用紙のおおまかな使い方を説明します。
まず原稿用紙(1枚600字)の使い方について。
(1)600字、(2)600字、(3)600字 が良いバランスです。
問Ⅰも原稿用紙3枚ですが、上のバランスだと、問Ⅰと同じような構成で書ける点がGOODです。
(問Ⅰは(1)600字、(2)600字、(3)400字、(4)200字で問題なしです)
もちろん、設問ごとの文字数は、あくまで「目安」です。
全ての設問にバランス良く答える事は重要ですが、そのことばかりに気を取られ、時間切れではNGです。
原稿用紙の使い方コツ
あらかじめ構成を決めてから、答案を書き始めましょう。
いくら技術的に素晴らしい答案でも、闇雲にダラダラ論述しては不合格です。
いくら技術的に素晴らしい答案でも、試験官から見て読みにくければ評価されないでしょう。
例えば次のように、「項目立てて整理された答案」と「ダラダラと書き下した答案」どちらが見やすいでしょうか。
技術士試験では、重要なキーワードをとらえつつ、端的に論述する力が問われます。
逆に、余計な事をダラダラと答案に書くことは、技術士試験ではNGとされています。
技術士答案の悪い例として、「黒い答案」という物が有ります。
「黒い答案」とは、章立てや図が無く、文字で埋め尽くされた答案のことです。
技術的に素晴らしい答案を書いても、論文としての見やすさが評価されなければ、不合格です。
原稿用紙の具体的な構成
今回挙げた出題パターンに照らして答案を作成すると、こんな風になります。
答案1枚目
1. 〇〇を実現するための製品例
製品例を3行で説明
1-1.一つ目の課題(〇〇の観点)
現状→問題点→課題を6行で説明
1-2.二つ目の課題(〇〇の観点)
現状→問題点→課題を6行で説明
1-3.三つ目の課題(〇〇の観点)
現状→問題点→課題を6行で説明
答案2枚目
2.最も重要と考える課題○○の解決策
最も重要と考えた理由を3行で説明
2-1.解決策1○○を利用する方法
6行で説明
2-2.解決策2○○を利用する方法
6行で説明
2-3解決策3○○を利用する方法
6行で説明
答案3枚目
3.新たに生じうるリスクと対策
3-1.○○のリスク
10行で説明
3-2.〇〇の対応策(リスク対策)
10行で説明 以上
原稿用紙の構成は、あくまでも参考程度とお考え下さい。
骨子を書いてから中身を書く
骨子とは、論文の構成や記述フレームを指します。行き当たりばったりにならぬよう、まず全体の地図を書いてから、詳細を書こうというものです。
骨子は、筆記試験の必須Ⅰと選択Ⅱ-2と選択Ⅲで書きます。必須Ⅰと選択Ⅲは問題の構成が似ているので、骨子もほぼ同じです。この必須Ⅰと選択Ⅲを制すると、9枚のうち6枚を攻略したことになり、合格がグッと近づきます。
そのため、ここでは選択Ⅲの出題例と、骨子の書き方を説明します。
選択問題Ⅲは、たとえば次のように出題されます。
(1)新しく開発する機械製品を具体的に一つ示し、その設計を担当する技術者の立場で、一部のコンポーネントを外製する場合の課題を多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題にたいする複数の解決策を示せ。
(3)すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
上の問題文のキーワードを拾うと、課題・解決策・リスクと対応策、となります。そのため、骨子は課題・解決策・リスクと対応策 を中心に考えます。具体的には、次のステップとなります。
1) 問題文から目標と現状を読み取る
目標:あるべき姿・ありたい姿
現状:実際の姿・現在の状態
2) 問題点を分析して課題と解決策を発想する
問題:目標と現状のギャップの要因
課題:問題解決のためにすべきこと
解決策:課題の具体的な方策
3) 効果とリスクを評価する
効果:目的の達成度
波及効果:目的以外の効果
リスク:目的や方策に与える不確定な事象
※リスクは、発生が不確定で、かつ効果が消えてしまうような事象を指します。
※どうしても課題が書けない時は、先に解決策を考え、解決策から逆に課題を設定します。
上記の骨子を、論文作成前に必ず書きます。先に本文を書きたくなる衝動を抑え、骨子の完成度を重視します。最初は骨子作成に3日間かかるかもしれません。それでも骨子作成は重要だと考えます。骨子が完成したら、骨子全体で筋が通っているか、よく確認しましょう。
課題とは「現状」と「あるべき姿」とのギャップ
まず(1)では、「課題」を書きます。
さて「課題」とは何でしょうか?
「問題点」とも「解決策」とも違います。
課題とは、「現状」と「あるべき姿」とのギャップを埋める方針の事を言います。
例えば今体重が80kgあるとして、半年後に75kgまで痩せる事を目標にしたとします。
現状:今体重が80kgある
あるべき姿:半年後に75kgまで痩せる
課題:半年間で5kg痩せる
もう一例考えます。今度は技術的な課題を考えます。
あなたは自動車メーカの従業員です。
供給責務のある自動車の保守部品に対し、部品が製造困難となる事態が多発しています。
現状:生産中止後15年間は部品の供給責務がある。しかし年月の経過ととに、材料の法規制や市場トレンドが変化し、所望の材料を調達できないケースが発生している。
あるべき姿:供給責務のある部品は、全て製造可能な状態としたい。
さあ、課題はどうでしょうか?
もちろん悪くは無いですが、「技術士」の論文としては少し浅いです。
課題の段階でここまで具体的に書いておき、解決策では、これを具体的にどう達成するかを書きます。
最も重要と考える理由を書く
(2)では次のように出題されます。
(2)その中で最も重要な課題を1つ挙げ、複数の解決策を示せ。
特に記載されていませんが、最も重要な課題1つを「選んだ理由」を書きましょう。
※令和5年度の時点では、最も重要だと選んだ理由を書くよう、指示がある場合があります。
長く記述する必要はありませんが、採点者の腑に落ちる説明を心掛けましょう。
成果と波及効果はこう書く
成果と波及効果は、解決策の「プラス」部分を書いてください。
問Ⅲは具体的な製品、アイテムを想定して書きます。
自分の業務で扱った製品を取り上げ、解決策を行った場合の具体的な成果を書きましょう。
成果:解決策から得られる直接的な成果をまず書く。
波及効果:その結果、得られる周辺効果を書く。
解決策の「マイナス」部分は、懸念事項の方に書いてください。
リスクとは、解決策を実施しても残ってしまう、不確実で危険な事象
多くの技術部門の(3)で、「リスク」と、「リスクの対応策」の記述が求められます。
まず、「リスク」という言葉を正確に理解することが肝要です。
リスクとは、解決策に潜む、不確実で危険な事象を意味します。
技術士試験での「リスクを述べよ」とは、
解決策の中に潜む、「現在は顕在化していないが仮に顕在化した場合、重大な悪影響を与える不確実で危険な事象を述べよ。」
の意味。
※懸念事項は、リスクより広い言葉です。リスクの方が、回答が難しいです。まずはリスクを正確に理解しましょう。
少し分かりにくい思うので、リスクの具体的な例を出します。
リスクを正確に理解し記述する事が、Ⅲ突破のカギとなります…!
ありがちな低得点答案として、解決策で解消できる事をリスクで書く、という例があります。
例えば、次のような答案は、解決案で解消できることをリスクに書いています。
この答案に対し、解決策を変更することで、筋の通った答案に変わります。
Ⅲは、課題、解決策、リスクの筋が一本通る事が、最重要です。この精度を添削などで鍛えます!
リスク対策は○回避→○低減→×移転→×保有
続いてリスクの対策について説明します。
リスク対策は4つの方法でアイデアを考えると良いです。
リスクの対策は4つの方法でアイデアを考えると良いです。
リスクの対策:①回避 → ②低減 → ③移転 → ④保有
上のリスク対策を見て分かるとおり、②リスクの低減 が良い対策案となりやすいです。
例えば②リスクの低減の一例として、先ほどの自動ブレーキで次のような答案を考えました。
センサが誤作動する前に交換を実施することで、誤作動に至る確率を減らす提案ができました。
懸念事項はマイナス要因をとにかく書けば良い
続いて、「懸念事項」を延べよ、という出題パターンも最近見られます。
懸念事項とは、「何か気になる悪い事象」と考えていただければ問題ありません。
懸念事項の一部にリスクが含まれるため、リスクの対策をしっかりすれば、懸念事項は難なく回答可能です。
※何でも書いて良い訳ではなく、「専門分野の技術士」としてふさわしい回答を作成します。
専門とする科学技術の分野において、高等の専門的応用能力が伝わる論述を心がけましょう。
白書を読んで主要テーマを予測しよう
必須科目Ⅰは出題範囲が広いですが、お題にはパターンがあり、多くは「白書」から出題されます。「白書」とは、各省庁が発行する政策書であり、毎年決まった時期に発行されます。技術士試験は国家資格なので、国の情勢や政策を捉えている必要があります。そのため、各省庁が発行する政策書である「白書」は、とても良い参考書となります。早い時期から一読されることを勧めます。
全部門に対して、ものづくり白書と情報通信白書は役に立つと思います。部門ごとに次の白書を読んでおくと良いと思います。
建設部門は、国土交通白書
農業部門は、食料・農業・農村白書
森林部門は、林業白書
水産部門は、水産白書
環境部門は、環境白書
原子力部門は、原子力白書
選択科目Ⅲの過去問解答例と添削
添削を受ける前の答案
選択科目Ⅲの答案作成の参考として、私が受けた添削の例を紹介します。
まず、講師から添削を受ける前の答案を紹介します。
工業製品の信頼性が、予期せぬ変形や破壊によって損なわれ、不具合が生じることがある。この場合、原因を特定する必要があると同時に、同じ不具合が生じないようにするための対策も併せて必要になる。あなたが、不具合を対策する材料強度分野の責任者である。
(1)具体的な工業製品を1つ想定し、不具合の原因となる事象を系統的に細分化して、原因を特定する手法について多面的に述べよ。
(2)破壊により信頼性を損なう事例を1つ想定し、(1)で示した手法のうち1つを用いて、原因の特定と再発防止策を提案せよ。
(3) (2)で示した原因の特定と再発防止策について、技術的な限界を説明せよ。
1.不具合の原因特定と対策について
(1)-1ブレーキシューの想定
具体的な工業製品として、ロープ式牽引機のブレーキシューを想定する。ライニングが鉄製のシューに接着剤で固定される。ライニングがシューから脱落する不具合を想定する。
(1)-2設計段階での不具合特定方法
①FMEA
事前に対象部位を選定し、故障モードを列挙する。その後、故障モードの影響とその原因を記述する。各故障モードの重大性と頻度で評価し、対策の優先度を決める。最後に、故障の対策を実施する。
長所:設計段階で予測可能なため、潜在的な不具合を防止可能。更に重大、高頻度な不具合を重点対策可能。
短所:どの程度対策をとるべきか判断が困難。
(1)-3不具合発生時の原因特定方法
①FTA
不具合事象をツリートップに書き、下方にトップ事象の要因を漏れが無いよう列挙する。ANDゲートやORゲートを使用し、上位事象の発生条件を記述する。最後にフローチャート図を参照し、発生原因の対策を行う。
長所:全要因を抽出するため、他の要因の発生確率が分かれば、残りの要因の発生確率が推定可能。
短所:不具合の未然防止には使用不可能。
2)FTAを用いたライニング脱落の要因特定と再発防止策
(2)-1原因の特定
図2の通り、ライニング脱落の要因をツリー上に記述する。
①破壊面の目視確認
フロー2層目の判断として、目視にて破壊箇所を確認する。更に、破壊面が、段付きのしま模様となっている場合は、疲労破壊と考える。接着剤自身が大きく横ずれしている場合はクリープ破壊と考える。
②再現試験の実施
疲労破壊の場合は、想定する繰返し応力を与えて、早期破壊有無を確認する。クリープ破壊は、使用上限温度で、想定応力を負荷し続け、早期破壊有無を確認する。
(2)-2再発防止策
①応力集中の緩和
接着部に応力集中が発生しないようRを付ける。Rが困難ならば、角を落とす。
②クリープ変形の抑制
高温時クリープ変形した場合でも、シューを土手に当てることで、クリープ変形、破壊を防止する。
(3)原因特定と再発防止策の技術的な限界
(3)-1原因特定の技術的な限界
①FTA作成者の技術的想像力不足
FTAのフローを網羅的に正しく書けなければ、真因を見落とす場合がある。
②新システム導入時の故障発生確率見積困難
(3)-2再発防止策の技術的な限界
①既出荷品のさかのぼり対策
②未発生不具合の対策優先順位決めが困難
③寸法制約による、代替品の疲労寿命<製品品質保証年数
ライニングが剥離し位置ずれしたことを検出するスイッチを付ける。剥離した場合でも一時的には土手でブレーキトルクを保持可能であり、スイッチ検出後に部品交換対応する。 以上
令和4年度に見返すと甘い…。キーワードの羅列で終わっていて、「なぜ」と疑問が残りやすい答案…。
添削を受けた後の答案
続いて、添削を20回以上受けて、根本的に改善された答案を紹介します。
超高齢社会において、高齢者の生活利便性を考えた製品が必要になっている。医療、介護、に限らず、移動や住宅内での生活でも高齢者をサポートする製品が求められてる。今後の人口動態も考慮にいれて、以下の設問に答えよ。
(1) あなたの専門分野において、設計者の観点から高齢化社会に貢献できる製品を具体的に挙げて、製品開発における課題を抽出して分析せよ。
(2) 抽出した課題の中から最も重要な課題を挙げ、解決策を複数示せ。
(3) 解決方法を実施する場合に共通して新たに生まれるリスクとその対策について述べよ。
答案はこちらです。
1.高齢化社会に貢献するエレベータの開発課題
1-1.製品例(エレベータ用巻上機)
製品例は、図1の巻上機を想定する。巻上機のブレーキ(以下、BK)は、綱車を保持しカゴを静止させる安全装置である。駅、病院等のエレベータは高齢者の生活利便性を向上させる。
1-2.非常停止時の制動ショックを軽減したBK設計
地震や停電、BK不具合検出時に作動する非常ブレーキは、カゴ床から乗員に対し重力加速度の約3倍の力を与える。2重系の片側故障や乗員数のバラつきに対応したBKの制動力は、通常運行時に過剰である。この制動力過剰な問題に対し、非常ブレーキが与える高齢者への負担を軽減するBK設計が課題である。
1-3.足の踏み外しや車いすに配慮したカゴ床段差設計
足の踏み外しや車いすに配慮したエレベータは、カゴ床と乗場床の高さの差を5mm以下とする。振動騒音を低減し高齢者に配慮した磁石式巻上機は、ギヤを排除しており、僅かな角度誤差が大きなカゴ位置誤差に繋がる。このカゴ位置誤差の問題に対し、1000パルス/回転以上のエンコーダを選定する等、カゴ床段差に配慮する。
1-4.公共物件へのエレベータ普及拡大を実現する遠隔保守
駅舎等公共物件では、足の不自由な高齢者でも移動できるよう、エレベータの普及が急務である。しかし、日中のエレベータ休止が難しい公共物件の保守作業は、働き手が少ない深夜に行う必要がある。この深夜作業員不足の問題に対し、カゴ床段差やBK制動力を無人で自動的に診断可能な巻上機設計が課題である。
2.課題の解決策
制動ショックで高齢者骨折する事例が発生しており、安全最優先の考えから、制動ショックに対する解決策を示す。
2-1.PDMを利用したブレーキ落下時間の情報共有と設計
非常停止時のBKは、BKへの電流供給停止→残留電流が閉回路の抵抗器で消費(10~70ms)→コイル磁力が低下し可動鉄心が落下(20ms)→パッドがドラムを押圧→制動力が発生する。非常停止時の制動ショックを軽減したBKの設計では、100ms以内のBK動作としつつ、2個のBKの閉回路の抵抗値に差を設け、制動ショック時期を分散させる。機械設計者は、BKの動作幅とバネ力からBKの落下時間を算出し、PDMを利用して電気設計者に閉回路での適切な電流消費時間を情報共有する。
2-2.タグチメソッドを利用した摩擦係数のばらつき低減
制動力の過剰を排除したBKの設計では、BKパッドの摩擦係数のばらつきを少なくすることが重要である。その摩擦係数は、面圧分布や使用温度などにより変動するため、タグチメソットを活用して、パッドの形状や材質の最適化と制動力の最適化を図る。
2-3.スイッチ誤作動による非常停止の未然防止対策
巻上機では、BKの電磁吸引→BK動作確認用のスイッチ押し代が不十分→エレベータの走行振動が発生→スイッチが誤作動→非常ブレーキ作動が発生する。スイッチ誤作動の未然防止では、BKのコイル電流印加開始からスイッチ押下までの時間を遠隔診断する。本未然防止対策は、スイッチ押し代が不十分になる前に、スイッチ動作調整対策ができる。
3.リスクと対応策
3-1.ドラムに異物付着よるブレーキトルク低下(リスク)
2項の解決策で述べた対策を講じても、ドラムに異物が付着してブレーキトルクが低下するリスクが懸念される。なぜなら、巻上機が設置される昇降路は、オイルミストや粉塵があり、異物の混入を完全に防ぐことは難しい。
BKには、ドラムに異物が付着すると、次のような不具合が発生する。ドラムへの異物付着では、異物がパッドに接触→異物が潰れパッドに広く付着→摩擦係数低下が発生する。この摩擦係数低下の発生では、BKの保持力が低下し、カゴの位置を保持できなくなる。その保持力の低下は、乗客がカゴを乗り降りする際に発生すると、乗客がカゴに挟まれる重大事故に至る。
3-2.遠隔診断によるカゴ滑り未然防止対策(リスク対策)
カゴ滑り未然防止対策では、BKの静トルクと動トルクを自動運転にて遠隔診断する。遠隔診断では、BKを作動させた状態でモータトルクを印加し、滑り量をエンコーダで検出する。トルク低下早期検出では、必要静トルクの2倍で滑り検査を行い、保守員に自動通知する。本防止策は、異物がパッド全面を覆う前に、パッド交換とドラム清掃対策ができる。 以上
添削のおかげで、答案の「型」が完成しました。令和4,5年度では、オールAでの筆記合格となりました。
このように、論文の「型」ができると、あとはレパートリーを増やせばOKとなります。
「型」の習得は、最初のうちは、誰かのものを真似るのが良いでしょう。
真似て答案を作成→添削→再び答案作成 このリズムが私を合格に連れてくれました。
参考として、添削を受ける上での講座を紹介します。
▼スタディング技術士講座での添削例
スタディングの技術士通信講座で選択科目Ⅲの添削を受けてみた>>
▼アガルート技術士講座での添削例
アガルートの技術士通信講座で選択科目Ⅲの添削を受けてみた>>
▼添削のためにどの講座を受けようか迷っている方は、こちらが参考になると思います。
【添削ならコレ!】技術士(二次試験対策)おすすめの論文添削を6社紹介 ランキングベスト3を発表!>>
まとめ
ここまでお読み頂きありがとうございます。筆記試験の選択科目Ⅲのポイントは次の通りです。
- 問題Ⅲは傾向把握と対策が有効
- 白書から出題テーマを推測しよう
- 600字、600字、600字で使う
- 課題とは「現状」と「あるべき姿」の差
- (2)は最も重要と考えた理由も書く
- 効果と波及効果はプラス面を書く
- 懸念事項とは解決策に潜む不確実で危険な事象
- 懸念事項は回避→低減→移転→保有
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筆記試験対策
2.学習支援
A評価論文例
B評価論文例
受験申込書の攻略シート
2枚論文の攻略シート
3枚論文の攻略シート
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